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Vanishing Ray Vanishing
ray Stage03-A “Warlock battlefield” - Loud laughter of Full Metal Beast - |
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6 忠実に任務を遂行しただけである整備員を、僕は本気で殴り飛ばしたいと思った。 しかしそれはさすがに横暴なので、握り固めた拳は人知れずそっと解いた。 「あ、ああ。ありがとう」 僕の礼を受け、整備員は鍔つき帽子を外して深々と頭を下げた。 「では、自分たちは今日はこれで……お二方も出られますか?」 この言葉は、出発するか? という意味ではないだろう。彼らは僕とインモータルがここに残り、ジエイエンの再来に備えてくれると信じて疑わないのだから。 僕も覚悟は決まっている、たとえインモータルが怖気づこうが、僕らは僕らの役目を全うしなければならない。 たとえ相手が同じ人間であったとしても……である。 「ああ……先に行っててくれ」 ここからの戦いは、これまでとは違った意味で辛いものとなるだろう。 彼女に残酷な事を強いるとしても……僕らは立ち止まることは出来ないのだ。 それが人類すべての未来のためになるのならば…… 「さあインモータル、もう休もう」 きっとまた明日から、休む暇もない戦いが始まる。 立ち上がり手を差し伸べると、ゆっくりではあるがインモータルもその小さな手を伸ばしてきた。夜風に冷やされた彼女の手はひんやりとしていたが、握りしめるとじんわりと暖かくなっていくのが分かる。 この温もりが、人の命の証なのだろうと思うと、自分たちに課せられた使命の意味を強く感じる。 僕たちは戦わなくてはならない。 護るために…… 「……ッ!?」 不意に、甲高い風切音が耳に届いた。それが何なのか、僕らは理解するよりも早く身を伏せた。本能的にそれが危険な何かだと感じ取ったのだ。 直後に衝撃、そして轟音が鳴り響く。 基地の建物が激しく振動し、天井から吊るされていた裸電球が激しく暴れまわる。 一瞬の間を置き、真っ赤な警戒ランプが点灯した……敵襲だ! 「夜中に来やがったか!」 「……教団?」 通常のようにガイストを相手にした場合、こういった基地が夜襲にあうことは稀だ。単独で行動する習性のないガイスト浸食体は、視界の悪い夜間に纏まって行動することが出来ない。故に人類軍も夜間は警戒を解いてしまう傾向があり、そこを突いてくるということは、つまり。 インモータルの言葉に鋭く首肯し、僕は隣接する管制室へと駆け込んだ。 「敵か!」 「は、はい。ジャイアント型WoS三機と、ジエイエンです!」 夕方と同じ編成……今度こそ基地を真っ新の更地にするつもりだろう。 「インモータルと出る! 基地の戦力も出せるだけ出してくれ」 それだけ言うと、僕は管制室の扉を乱暴に閉め、格納庫へと踵を返した。 「インモータル、出るぞ」 「…………」 「……インモータル?」 「い、いけない」 「なんだって?」 インモータルは動かなかった。一度は伸ばしかけたその手の平を、今は固く閉ざしている。 「戦えない……戦えないよ……」 「そんなことを言っている場合じゃあないだろう、ここにいる大勢の命がかかっているんだぞ、守らなきゃいけないんだ、僕たちは」 そうだ、たとえ同じ人間の命を踏み台にしたとしても、僕らは人類存続のために戦わなければならない。それを教えてくれたのは他でもない……君じゃあないか。 「インモータル、君は言っていたよな。私たちはこんなところで終わる訳にはいかないって。こんなところで立ち止まってはいられないって」 「…………」 インモータルは答えない。だが、僕は構わずに続ける。 「確かに本当ならば戦わなくていい相手だったのかもしれない。でも、もう奴らを捨て置くことは出来ないんだ。僕らが戦わなければ、多くの命が犠牲になる!」 間違ってはいない筈だ、僕らは護る。それが使命だ。彼女だってそれはわかっているはず……現にこれまでだってそうしてきたのだ。出来ない筈がない。 しかしインモータルは首を横に振る。 「何故だ! インモータルの力があれば奴らの命を奪わずに無力化することだってできるだろう!」 「出来ないよ……」 「そんな筈はない、相手に航空型はいない、普通に撃破しても命までは奪わずに済むはずだ!」 「出来ない……出来ないよそんなの! だって……だって、あいつらおかしいよ……あいつらと戦っていたら、何が何だか分からなくなってしまうんだ!」 いやいやと首を振り、インモータルは駄々をこねる子供のように声を上げる。これが僕らの希望を担う英雄の姿かと疑いたくなるほど、その姿は弱弱しく、頼りない。 「皆を守るんだろう! そのために戦うんじゃなかったのか!」 これも彼女の言葉だ。どうして急にこうなってしまったのだ。次第に苛立ちにも似た感情が沸々と湧き上がってくるのを感じた。 何が君をこうしてしまったんだ。昨日までの君は、無茶だろうがなんだろうがその力で道なき道を切り開いてきたじゃないか。 「出来ないなんて言わせない、出来ないならば死んで行くだけだ!」 「い、嫌だ……戦ったら、私が分からなくなるんだッ!」 しかし彼女は僕の言葉を聞き入れようとせず、僕の胸を強く押しやった。ドオンという音とともに基地の一階部分へと砲弾が飛び込んだのは丁度その時だ。足元が激しく揺さぶられる。床にひびが入り、固定されていない機材が派手に転げまわった。 「うわあぁぁぁっっ!!」 衝撃に悲鳴を上げたのはインモータルだ。無様に床へと突っ伏して、頭を抱えて怯えている。 「嫌だ……嫌だ……」 どこへ行こうというのか、這いずるように格納庫の奥へと身を隠そうとするインモータルの姿に、僕はまるで、全身の血液が抜き取られるような喪失感に襲われる。 「なんだよそれは……ふざけるなよ……!」 失望……そして怒りが、僕の胸を満たす。 気付くと僕はインモータルへと歩み寄り、彼女を半ば無理やり引き起こしていた。 きっと鬼のような形相だったのだろう、僕の顔見て、インモータルは必死に首を振った。頭をぶんぶんと振る度、涙のしずくが僕の頬を叩く。 「戦え! それが僕らの役割だ、生きる意味なんだよ!」 「嫌だ……怖い……怖いよ……」 「お前が戦わないなら誰が戦うんだ。戦うんだよ、敵と!」 「う、うるさいっ! 私の気持ちも、わからないくせにっ……! 自分は戦いもしない観測機のくせにっ!」 そう言い放ち、インモータルはもう一度僕の胸を強く押しのけた。 その言葉にかっとなった瞬間、僕は頭に血が上り、目の前が真っ赤になる。 「きゃぁっ!?」 気付くと僕はインモータルの胸元に手をかけていた。容赦なく襟口を掴み力ずくで引寄せると、その勢いで体を振り回されたインモータルは僕めがけて倒れ掛かった。だが、もう知ったことではない。 「ナイアス王を殺しておいて……言いたいことはそれだけか!」 「!?」 はっと顔を上げたインモータルの胸元に手を入れ、僕はそれを掴んだ。 特殊召喚を行うオペレーターならば誰しもが持っている、召喚のためのキーアイテムだ。ペンダントのように首から下げることが多く、インモータルもそうやって所持しているであろうことはあらかじめ想定していた。 それをインモータルからもぎ取り、僕はゲートオブハデスの前へと立つ。 「きゅ……キューちゃん……?」 「お前が出られないっていうなら、僕がやる。戦えないやつに頼りはしない!」 そうだ、命令が何だ。作戦が何だ! 僕は仲間のため……人々のために戦いたいと願い、ここまでやってきたのだ。味方の死に様をコレクションしたいんじゃあない……戦って、皆を守りたいんだ! そのためならこの命、死神(おまえ)にくれてやる! R-02“インモータル”! もぎ取ったペンダント型アイテムを握りしめ、ゲートオブハデスを睨み付けた僕は、あらん限りの声で叫ぶ。 「召喚(サモーニング)!!」 風切音、そして着弾。 格納庫が大きく揺さぶられ、インモータルの悲鳴が僕の耳に届いた。 姿は……どういうことだ、変わっていない? 「なんだ、どうなってる?」 再びペンダントを掲げR-02を召喚しようと試みるも、うんともすんとも反応がない。 クリスタルエナジーが足りないのか? いやそれはない、現にゲートオブハデスに設置された大型クリスタルケージには容量いっぱいの二千五百目盛(ゲージ)分のクリスタルエナジーが装填されているし、僕のケージも最大まで補充してある。 「何故だ……いったい何故!?」 ヒステリックに上げた声にかぶさるように、再び敵の砲撃が基地を襲った。今度はテラスのど真ん中だ。 「うわあっ!!」 飛び散った木材の破片が格納庫内まで飛び込んできた。インモータルだけでなく、僕も反射的に地面に伏せて難を逃れる。 「嫌だ……死にたくない……」 インモータルの嗚咽が、まるで死へのカウントダウンにも聞こえる。 高まる緊張、煽られる恐怖。迫りくる死の影が、僕らの精神力を容赦なく奪い去ってゆく…… ****************************** ――生きたいか? そのとき、声が聞こえた。 幾度となく聞こえる、正体不明のあの声だ。 初めてR-02と出会ったあの時から、繰り返し私に問いかけてくる声…… ――死ぬのが怖いか? 質問はいつだって決まっている。 そして……答えも。 「生きたい……死にたくないよ……」 ――ならば、この手を取れ。 でも今は、それがとても恐ろしいものに思えて仕方がなかった。 ――他者を蹴落としてでも、生を掴みとりたいのならば! 「私は……私はっ!」 ――さあ……殺せっ!! ****************************** 吹き飛ばされたテラスの破片が降り注ぐ中、更にけたたましい轟音が周囲を包み込んだ。 「くっ……今度はなんだ?」 必死の思いで首を巡らせると、これはどういう事だろう。先ほどまで全くの無反応だったゲートオブハデスが、暗闇を思わせる漆黒の稲妻を放ち始めたのだ。 その稲妻は周囲を闇に染めてゆき、僕の視界は瞬く間に黒く塗りつぶされてしまった。 「う、うわあっ!!??」 次の瞬間、衝撃波によって弾き飛ばされた僕は無様にテラスまで転げだしていた。風穴に落ちなかったのは幸運としか言いようがなかったが、握りしめていたはずのペンダントがない。 焦って周囲を見回す僕だったが、屋内の明かりを遮る何かが背後に立つのを感じ、僕は思わず振り返った。 「!?」 《…………》 言葉が出なかった……だって、だってたった今まであんなに嫌がっていたじゃあないか。もう戦いたくないって、怖いって。 「インモータル……どうして?」 《…………》 僕の問いかけにインモータルは答えなかった。 ただ無言で、漆黒の羽根をはためかせて進み出る。 夜の闇に佇む敵を、その虚ろな相貌で見据えながら。 |
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