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Vanishing Ray Vanishing
ray Stage03-A “Warlock battlefield” - Loud laughter of Full Metal Beast - |
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4 黒煙を上げる基地に危機感を煽られたのだろう、インモータルは吐き捨てるように言うと凍結から復帰した翼をはためかせて一気に高度を上げた。僕の傍らまで来るとアンノウンから最も離れた一機……僕がシーエアラ3と表示名を割り当てたグリッパーへと接近する。 まずは右腕の魔法弓による射撃を目標の足元めがけて放つ。歩兵の魔法を圧倒する射程距離を持ったクリスタル兵器だが簡単にグリッパーを倒せるほどの火力は無い。インモータルの主力武器は左手に携えた小型のランスだ。そしてそれを使うためには、敵WoSの足元を固めていた歩兵を追い払ってやる必要があった。 だが、連中は魔法弓からの射撃を受けても怯む様子がない。もともと命中させることが目的でないとはいえ、それにしても平然とグリッパーの足元を固め続けている。 『なんなんだよあいつら、攻撃されてるってのに逃げようともしない!』 まるで信じられないものを見たように、インモータルがヒステリックに声を上げた。 信じられないと思うのは僕とて同じことだ、だが奴ら“教団”の連中はそういった者たちばかりなのだ。 『なんだよそれ、教団ってなんなんだ?』 「なんだ、インモータルは知らないのか?」 教団と呼ばれる存在は、少なくとも僕らが知る限りこの世界に一つしかない。人類革新教団と呼ばれる、いわば破滅思想主義者たちの寄り集まり……ガイストを天よりの遣いと信奉し、奴等の破壊を受け入れることこそが人類の採るべき道だという、狂った思想の連中だ。 教団員はガイストによってホルデイン王国が滅ぼされた頃から確認されており、潜在的にはそれ以前から存在していたであろうと目されている。彼らにとって人類軍の必死の抵抗は、ガイストによって示された人類の未来を拒絶する事に他ならず、それは即ち彼らにとって許されざる行為とのことだ。 「奴ら教団員にとって、ガイストは自分たちの命よりも尊いものなんだとさ」 『信じられない、気が狂ってる』 連中には悪いが、インモータルの言葉に僕は全面的に同意する。 「インモータル、零時方向砲撃」 『え?』 僕の声に反応して、インモータルはとっさに機首を持ち上げ、シーエアラ3の頭上をすり抜ける。インモータルの真正面方向に居るシーエアラ1……三機いるグリッパーの一機が長距離砲をインモータルめがけて発射してきたのだ。 グリッパーの砲撃は旧来のジャイアントのそれとは異なる、クリスタルエナジーによって稼動する特殊建造物への共鳴破壊を行う魔法弾ではない。高密度エネルギーによる直接破壊を目的とした兵器である。言ってみれば、SWCと系統を同じくするものだ。 しかし、その緩慢な動きでは俊敏なセイヴァートゥースを捉える事は出来ない。 『あ、危ないな! 死ぬかと思ったじゃないか!』 「僕に言ってる?」 『じゃないけど……じゃないけどもっと早く言ってよ!!』 「悪い……っと、今度は下だ!」 『!?』 インモータルの真下、シーエアラ3の足元に屯す教団歩兵達が銃を撃ちかけてきたのだ。 『クソッ!』 咄嗟の判断か、インモータルは魔法弓で応戦する。もう長いこと自分から攻撃を行う機会がなかった僕が条件反射的に回避動作をとったのとは真逆の反応と言える。 だが、僕が攻撃という選択肢を思い浮かべなかったのは、何も僕がナインフェザーのオペレーターだからというだけではない筈だ。 相手は……人間なのだ。 そのことに撃ってから気づいたのか、インモータルはびくと肩を震わせた。そして相手は避けない。しかも今回は当てるつもりで放った射撃だ。威力が比較的低いとはいえ、生身で受ければ大きなダメージとなる魔法弓の射撃に身を晒したまま、敵歩兵は構わず攻撃を続行した。 そしてその行動がインモータルの動きに一瞬、それこそ1秒にも満たない短い間であったが遅れが生じる。 『ぐっ!!』 歩兵の長射程弾がインモータルの機体に直撃した。威力は大したこと無いとはいえ、航空型の常として機体の耐久率が非常に低い。今のでどこか負傷でもしていたら、戦闘続行は困難だ。 「下がれインモータル!」 『うう……で、でも……』 インモータルも被弾の衝撃でバランスを崩しはしたが、すぐさま体勢を立て直して高度を上げた。だが、彼女が怯んでいるのは最早誰の目からも明らかだ。 それでも味方を守らなければならないという意思があるのだろう、インモータルはちらりと基地の方へと目を向けた。 同時に、すぐ近くで轟音が鳴り響く。シーエアラ2が再度基地への砲撃を行ったのだ。 「クッ、友軍はまだか……!」 探信儀は崖の斜面を迂回している友軍WoSの反応をとらえている。味方も急ぎ駆け付けてくれてはいるのだが、如何せん地形が邪魔をしてすぐには辿り着けない。 非常にまずい状態……焦燥感、無力感が募り、意味もなく心を苛立たせる。 『ええいっ!』 焦り、苛立ちが冷静な判断力を奪ったのか。再度、インモータルはシーエアラ3の足元、敵歩兵へ魔法弓を向けた。 『お前たち、今すぐに攻撃を中止しろ!!』 「インモータル!?」 何を思ったか、インモータルは突然レシーバーを外部出力に切り替え、敵に向けてそう呼びかけたのだ。 『このまま攻撃を続けるというのなら……』 息遣いが荒い、やはりインモータルは明らかに焦燥している。その証拠に、差し向けた魔法弓は細かく震え、照準が定まっていない。 発した言葉も息が詰まってしまったかのように、続きを口に出せずにいる。 「このまま続けたらどうするというのだ!」 不意に、敵教団員の一人が声を上げた。まだ若い男のようだった。 「撃つのか? 生身の我らをその魔法弓で。殺すのか!」 『ぐっ……!』 「撃ってみるがいい、我らは滅びを受け入れる。この腐った世界からの解放が我らの真の喜びだからな!」 『ば……馬鹿なことを! ここから消えないと、本当に撃つぞ!』 「撃ってみろ! さあ、はやく! 撃て!」 インモータルを挑発する男の声はどんどん勢いを増してゆく。彼らは死に対する恐怖が無いのだろうか? 教団員はもとより破滅思想主義者の集まりだ。人類の滅亡を望んでおり、その人類には、彼ら自身も含まれているという話は何度か耳にしたことがある。 だが、これ以上は危険だ。 今はまだハッタリだが……これ以上インモータルを追い詰めてはいけない。これ以上は、本当に取り返しがつかなくなる。 「インモータル落ち着け、奴らの言葉に耳を貸すな!」 『わ、私は……』 「どうした、撃たないのか? 仲間を見殺しにするのか? それとも、我々の仲間になるのがお望みかな?」 『ばっ……馬鹿にして!』 「違うというのならば撃て、さあ、早く! 撃て! 撃て! 撃て!」 『私はっ』 「やめろ! 聞くな、インモータル!」 畳み掛けるような教団員の言葉に、次第に僕までもが追い詰められた気分になってくる。その手に、敵とはいえ幾人もの人の命を握っているインモータルのストレスは計り知れない。 このまま続けてはいけない。続けさせてはいけない。 「耳を塞げ! インモータル、奴らの声を聴くな!」 「撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て!」 僕の声もかき消されるほどに、いつしかその声は大合唱となり僕らへと襲い掛かってきた。 「撃て! 撃て! 撃て!」 「撃て! 撃て! 撃て!」 …… 「撃て! 撃て! 撃て!」 「撃て! 撃て! 撃て!」 ――殺せ! 「撃て! 撃て! 撃て!」 「撃て! 撃て! 撃て!」 ――早く、殺せ!! 『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!』 「止めろぉぉっ!!」 僕の制止も聞かず、インモータルは絶叫とともに魔法弓を連続的に射かけた。 狙いも何もない、ただひたすらに撃った。撃った。撃ちまくった! 自分たちめがけて降り注ぐ幾条もの矢を見上げながら、奴らは笑っている。笑っている! 見たくない! 僕が思わず目を伏せたその時、動的探信儀に急速に動く何かの反応があった。 「!?」 伏せた瞼を開いた時には、既にそれは彼我の間に割り込んでいた。 僕がマイク1の名称を割り当てたアンノウン。四本脚のWoSが、驚異的な瞬発力で射線を塞ぎ、そのボディを歩兵達の盾としたのだ。 大きな質量が一気に飛び込んできたため、周囲は一瞬にして爆音と砂埃に包まれた。 『フン、小物だな。兵士としても二流未満だ』 「なに?」 不意に響いた声に、僕は思わず身構えた。 『少し揺さぶってやればすぐに化けの皮がはがれる。所詮人間なんて言う愚かな生き物は、こうやって他者を傷つけてしか生きられないのさ』 その音声の発信源は……間違いない、この四脚のアンノウンからだ。 『な、なんなんだ……?』 震えた声でそう口にしたのは、ひどく混乱した様子のインモータルだ。 『一体……何がどうなって?』 涙声で問いかけるその言葉は、どうやら僕に向けての質問でも、ましてやアンノウンへ向けての言葉でもない。 ただ、彼女の停止した思考能力がこの状況を理解することが出来ず、浮かび上がった疑問符がそのまま口をついて出たのだ。 やがて戦場を吹き抜ける空風が巻き上がった砂埃を吹き払い、アンノウンに守られた教団員たちの姿があらわになる。 それと、彼らの歓声が上がるのは同時だった。 「インモータル、大丈夫か?」 『なんなんだよ、あいつら……どうして笑ってられるんだよ?』 「インモータル、しっかりしろ!」 『おかしい、おかしいじゃないか……だって、死ぬかもしれなかったんだよ? 怖くないのか? なんで笑ってるんだよ?』 「インモータル!」 『嫌だよ……怖いよ。あんなの、わかんないよ!!』 「…………」 その声は悲鳴にも近い、体はガタガタと震え、両腕は何かに怯えるように頭を抱えている。 繰り返された教団の呪詛に、インモータルの心が食われたのだ。 「クソッ!」 このままではいけない、僕はインモータルの腕を足の爪でがっちりと掴み、無理矢理引き剥がすようにしてその場から離れた。 グリッパーの砲撃は止められていない、アンノウンどころか、敵歩兵に対してすら一割も損害を与えられてはいない。 しかし、僕らはここで撤退するほかはなかったのだ。 インモータルをこのまま戦わせるわけにはいかない。万一のことがあって、インモータルを失うことなどあってはならない。 何より、僕はこれ以上インモータルの心が汚されていく様を、見たくはなかった。 |
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