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Vanishing Ray Vanishing
ray Stage03-A “Warlock battlefield” - Loud laughter of Full Metal Beast - |
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3 食堂から発着デッキへと出る扉をくぐったのと、猛烈な土煙が上がるのはほぼ同時だった。 目の前では轟音を伴う土色の爆発が巻き起こり、僕らの足元をぐらりと揺らす。咄嗟に壁にしがみつき態勢を保ちながら、揺れが収まると同時に屋上の管制室へと飛び込んだ。 「何事だ?」 ドアを蹴破ったかのような勢いで開け放ち、インモータルが怒鳴った。背後からの怒号に驚いたのか、管制員は眼を丸くして振り返る。 「あ、あんたは?」 「R-02のオペレーターだ。敵襲か?」 「インモータルか! わからない、クリスタルエナジーの反応が現れたと思ったら突然攻撃を……」 管制員たちは混乱している。レーダーを覗き見ればなるほど。画面上にはガイストなどの反応がない。あるのはWoSと思しきいくつかの反応だけだがそれらの一つとして友軍信号を発していないのだ。 「おい、このWoSはなんだ?」 「えっ? 友軍……じゃない!? なんだこのWoSは。今は見回りも出ていない筈だぞ!」 僕の指摘に管制員たちは声を上げた。突如現れた正体不明のWoS、そして基地への砲撃。 「教団か」 友軍反応のないWoSということならば、僕にはその連中に心当たりがあった。そいつ等は人類軍に敵対しているという点からも、このWoSがそうである可能性は極めて高いと推測できる。 「インモータルの存在を知って、僕らが立ち寄りそうな基地に襲撃を仕掛けてきたってところか……奴等のやりそうな事だ」 「教団……?」 僕の呟きにインモータルが反応した。眉根を寄せてこちらを見やる視線から、彼女もまた状況が呑み込めていないのであろうことが伺える。しかし、いちいち説明している時間はなかった。 「次弾来ます!」 受動的探信儀(パッシブソナー)を睨んでいた管制員の一人が叫んだ。館内通信などには繋いでおらず、管制室の中にいる僕らにしか届かない声だ。教育がなっていないのか、それとも管制員のバイトなのか。兎も角彼の報告は全くもって意味がないものであった。そして誰もそれを指摘しない。 「どこからだ?」 「周辺の丘からです」 「どっちの!」 「えっと……」 だめだ、全く役に立たない。思わず舌打ちをしながら、僕は管制室をぐるりと見回す。 「借りるぞ」 「え?」 「キューちゃん?」 コンソールの横の棚。その上に置かれていたのは古びた双眼鏡だった。それを引ったくり、僕は管制室のドアを開く。 二発目の砲弾が基地の手前五リーターム程の距離に着弾した。先程同様に猛烈な砂塵を巻き上げ、砕かれた土砂と爆風の圧力で建物がぐらりと揺れる。 「クッ……あっちか?」 足元から響く悲鳴を無視して、欄干の手すりに身を預ける。乗り出すような形になって見下ろした先の地面には、砲撃によって穿たれた大穴がぽっかりと顔を覗かせている。 クレーターの様子から、どちら側からの砲撃であったかを予測。砲弾の破片等が残っていないことを見ると、ジャイアント系列のWoSによる砲撃だろう。 砲撃元と思われる方角を双眼鏡で嘗める。盆地となる区域にそれらしき敵影は無いが、二つほど同じ方向へ広がっている穴が認められた。僕らが食堂で大騒ぎしているときには、すでに敵の砲撃が始まっていたということだろう。 緊張感に欠ける兵舎の連中に遅まきながらに怒りを覚えながら、僕はねじ式のゲージを操作して双眼鏡の倍率を操作しつつ、四方を囲む切り立った崖の縁を視線でなぞった。 「この距離なら通常のストロングカノンじゃあないな。長距離砲搭載型……着弾が一発ずつなところを見るとS型か」 S型というのは、ジャイアントを素体としたWoSの系列の一つを示すコードだ。元々機動力がないジャイアント系統だが、その長距離攻撃能力を買われてハーピー型と並び多くのWoSが製造されていた。その中でも、機動力を高めたA(アローヘッド)型と砲撃能力に特化したS(ストーンヘッド)型がある。恐らく敵機は後者だ。 敵機はこちらから直接目視できないよう、地形の起伏を利用して攻撃してきているのだろう。正確な型番まではわからないが、足の遅いS型ならばインモータルの突撃で一蹴できる。僕は踵を返し管制室へと飛び込んだ。 「敵は石頭。方位およそ一一〇。インモータルは出られるか?」 「いやダメだ、ゲートオブハデスの調整がまだなんだ」 虎の子のインモータルが出撃不能……いわゆるピンチというやつだった。 「チッ、連中このタイミングを狙ってきやがったか!」 「どういうことだ?」 ずいとインモータルが詰め寄ってきた。これまで何度となくこんな動作をとっていたが、それが少女の姿でとなると思わずドギマギしてしまう……が、今はそんな場合ではない。極力意識しないよう、僕は管制室のガラス越しに砲撃の発射地点と思しき方向へと視線を巡らせながら問いかけに答える。 「R-02はまだ試作段階だから、当然量産化が進んでいない。つまりゲートオブハデスごと制圧してしまえば、インモータルの開発は大きく遅れる事になる」 「ずいぶん賢い敵だな……嫌な感じだ」 その感想には僕も同意したいところだ。ともあれここで手をこまねいていても木端微塵にされるのがオチだ。こちらから打って出る他ない。 「なんでもいい、戦力になるWoSを貸してくれ」 「えっ、出るのか?」 僕の呼びかけに、管制員は目を丸くした。本当にこいつ等は軍人なのだろうか? 現に今攻撃を受けている最中なのだ。直視による攻撃でないとは言え、じきに基地も直撃弾を受ける。悠長に構えていられる状況でないことは誰の目からも明らかだ。 「当たり前だ、のんびりしている暇なんてないんだからな。行くぞインモータル!」 「え? ああ……うん!」 格納庫には航空型WoSの召喚に必要な機材がいくつか設置されている。その最奥では今尚インモータル召喚用のゲートオブハデスとアームハンガーの調整が進められている。R-02が出撃できるならばWoS程度は相手にならない筈だが、いまはそれに頼ることもできない。調整が終了するまで敵の攻撃を凌ぎ切る。それが今回のミッションだ。 「インモータル、行けるか?」 ナインフェザーに召喚変身し、僕はインモータルへと問いかけた。 『とりあえず……うん、大丈夫、行ける!』 振り返った先には、現在の人類軍主力航空型WoSであるセイヴァートゥースを召喚したインモータルの姿がある。片手にはセイヴァートゥースの標準装備である装着型の魔法弓、もう一方の手には航空型のためにリメイクされた小型のランスを携行している。加えて武器損失の危険を考慮し、R-02の戦闘データ記録用である大型RAMクリスタルを外した僕の背中には、小型ランスが二本積まれている。 「とにかく今は敵の攻撃を食い止めるのが先決だ。基地の戦力も出してもらうが、僕ら先行部隊が相手の注意を引き付けるんだ」 『わ、わかった!』 僕らが発った直後、敵弾が基地を襲う。直撃でこそないものの、ぎりぎりの地面を抉り爆風で施設の壁が崩落する。 「まずい、急ぐぞインモータル!」 言うが早いか、僕らは地面すれすれの高度から急上昇。稼いだ高度を位置エネルギーに変え、一一〇時の方向へ向けて一直線に加速した。 R-02のスラスターならば赤土の丘へ到達するまでものの数秒だっただろうが、今の僕らにそのような装備はない。決して遅い動作ではないのだが、散々目にしてきたインモータルの電光石火の攻めと比べてると、どうしても鈍重に思えてしまう。 そんなことを考えている内に、敵が潜伏しているであろう丘の縁へと近づいた。会敵した場合にすぐに放てるよう魔法弓を構えつつインモータルが飛び込む。しかし、僕は小さな違和感を感じていた。 (今砲弾が飛んできたのはそこからだったか?) 対ガイスト用のパッシブモードになっていた探信儀をアクティブモードに切り替える。すると探信儀はそこからWoSの反応を検出しなかった。 「インモータル、敵は移動しているぞ。北方向だ」 『えっ? そういうことは先に……』 僕の声を受け、インモータルは空中で急制動を掛ける。いわゆる崖っぷちのあたりで左右の翼を同じ方向に動かすことで、機体の向きをおよそ九十度変えた。その瞬間、インモータルの動きが停止したほんの一瞬の出来事だった。 『きゃあっ!?』 レシーバーから激しいノイズとともに、インモータルの悲鳴が聞こえた。 「インモータル、どうした!?」 急ぎナインフェザーの瞳孔を拡大。望遠モードでインモータルの様子を確認する。するとどうだろう、インモータルの半身が凍り付いているかのように白く変色しているではないか。 そしてそれを裏付けるかのように、翼の動きがぴたりと止んでしまったインモータルの駆る機体(セイヴァートゥース)は、制御を失い黒土の盆地へとまっ逆さまに落下を始めた。 「おい、インモータル!」 『くっ、歩兵だ』 「歩兵だと!?」 急ぎインモータルの元へと急行しつつ、僕は望遠モードのまま崖っぷちへと目を遣る。そこには確かに複数の人影が見られた。 「罠か……セイヴァートゥースに氷結魔法(ブリザードカレス)とはやってくれるじゃないか!」 ギリと奥歯を噛み締めながら、僕は機体を急上昇させる。インモータルは崖の斜面に体をぶつけながらも何とか体の自由を取り戻し、地面への激突は免れたようだ。 「大丈夫かインモータル、一旦崖から離れろ」 『わ、分かった……』 「今敵WoSの座標を……ん?」 探し当てた敵WoSの反応をインモータルへ転送しようとして、僕は妙な反応が混じっている事に気付いた。 『キューちゃん、今……』 「データを転送する、若干想定外のヤツが居るみたいだ」 『えっ?』 敵WoSは四機。ジャイアント型であるS-21“グリッパー”が三機。そしてデータ上はアンノウンとして表示されている、グリッパーに匹敵する巨体を持つ機体が一つ。 『……このアンノウンってのは何だ?』 アンノウン……つまりナインフェザーのデータバンクに記録されていないWoSないし召喚獣ということだが……僕はこれに見覚えがあった。いや、正確にはこれと非常に良く似たものに、だ。 「多分だけど、Mタイプだと思う」 『エム? 何だいそりゃあ』 インモータルが当然ともいえる疑問を口にしたと同時に、再度岩陰からの砲撃が飛んだ。今度は兵舎の外壁に命中。徐々にではあるが射撃の精度が上がってきている。 「まずいぞ、まずはグリッパー三機を黙らせるのが先だ」 『ああもうっ、こっちは本調子じゃないっていうのに!!』 これまでならば冗談交じりの一言に聞こえただろうが、今のインモータルは本当に嫌そうな。それこそ本当に「勘弁してくれ」と言わんばかりの声で嘆いていた。 「泣き言言ってる場合じゃないぞ、急げ急げ!」 『くっ……こなくそおっ!』 |
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