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Vanishing Ray Stage02
“the Straits of Scylla” - A Hermit in contaminated blue - |
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2 「あ、ありえない! そんなの無理に決まってるだろ!」 《無理じゃない。召喚獣は呼吸が出来なくても死にはしないよ》 「いやそういう問題じゃねーって! 生命維持は大丈夫でも、水になんて潜ったら動きが制限されすぎちゃうだろ! 海中にだってガイスト化した生き物が確認されてるんだ。襲われでもしたらどうするんだよ!」 《だから大丈夫だって、クリスタルスラスターは水中でも使えるし、ガトリングだってこういう時の為に魔法矢モードに切り替えられるようになってるんだから》 「何で水中戦闘を想定してあるんだよ。その機体を設計したヤツは変態か!?」 《それに関しては私も同意見だけどね、まあ使えるものは何でも使わせて貰おうじゃないか。ほら、さっさと掴まって》 散々続けられた押し問答をぶった切り、インモータルは僕に背中を向けて、その状態でずいと迫って来た。 ここまでの流れを簡単にまとめると、親型ガイストが地上に見当たらないので、もしかしたら地下に隠れているのではないかという結論にぶち当たった僕ら……と言うかインモータルは、警戒が厳重な地上ルートを避け、海中に潜行して入江に侵入。予想通りトライリス・タワーの真下に親型ガイストが潜んで居そうな空間が確認できたなら、其処から壁面をSWCで掘削し、突入殲滅を敢行すると言う作戦だ。 危険を伴うが、インモータルの戦闘能力とナインフェザーの索敵能力が合わされば不可能では無い。 しかし、僕はその作戦には猛反対であった。 理由は簡単だ。この僕……ナインフェザーには水中潜行能力がないからだ。 「そもそもアンタ一人で行くのかと思ったら、僕まで潜らせるとか何考えてるんだ! そっちは変態仕様か知らないけど、こっちはまともな性能すら持ってないんだよ」 《そんな事言ったって、私も別座標からの索敵情報で相対位置の把握なんて出来ないよ》 そう、つまりそういう事なのだ。この死神は戦闘能力皆無な僕を、非適応環境下であり、尚且つガイストが潜んでいる最前線に連れ込もうとしているのだ。 「そうじゃなくて、さっき君は私が守るとか言ってたばかりだろう! 早速これまでの人生で一番危険な目に合わされそうになってんだけど?」 《あ、そうなんだ》 「…………」 で? 何か問題が? とでも言いたげなインモータルの反応に、僕は閉口するしかなかった。 《大丈夫だってば。キミのサポートがあれば二人とも無事に切り抜けられるさ》 「前言撤回……設計者だけじゃない。インモータル、あんたも相当な変態だよ」 こいつに何を言っても無駄だ。今の問答でそう悟った僕は、諦観の溜息と共にそうぼやいた。最早覚悟を決めるしか無いようだ。 そんな僕の後ろ向きな決意とは裏腹に、当の問題児は妙にしゅんとした様子で一言。 《そんな事言われると……ちょっと傷つく》 ……面倒臭ぇ奴だな。 「うっさい、グチグチ言ってる間に夜が明けちゃうぞ。ほら、行くならさっさと行こう」 そう言って僕はインモータルのショルダーフックに足をかける。鉤状の爪でしっかりと体を固定すると、翼を畳んで背面にせり出したインモータルの背面操行部分に腰を下ろした。ちょうど肩車からずり落ちかけているような体勢だが、大型クリスタルケージを保護するための装甲板が椅子のようになり、案外納まりは良かった。 ドーンと轟音を立てながら、僕らは夜の海中へと身を投じた。 すぐさまインモータルの六枚の翼がピンと展開し、クリスタルスラスターがスクリューモードに切り替わる。 スラスター前面から取り込んだ流体に機構内部で圧をかけ、背面の噴出口から排出する事で推進力を得るという……やはり何を考えて搭載したのか、設計者の精神状態を疑わずにいられない機能だ。 ゆっくりとした速度で潜行する海中は、水面から差し込む僅かな星明りに照らされるのみだ。暗く、どこまでも続くようなその様子は、正に闇の深遠と言ったところか。 「今のところは静かだけど、そこかしこに海洋生物を侵食したガイストがいるかと思うと……ぞっとしないな」 聞こえるのは海流が機体を撫でる音とインモータルのスクリュー音、そして動的探信儀からの反響音のみだ。 とても静かなスクーバダイビングだった。 《何か感知したらすぐに知らせてくれよ。こっちは暗くて目が見えないんだから》 「データ通信は常時開放してるよ。こっちで感知した反応は即時インモータルにも転送されるから心配するな。取り舵十度」 《アイ・アイ・サー》 「そっちは面舵だ馬鹿」 僕の掛け声を受け、本来上官身分であるはずのインモータルはきびきびと機首を傾けた。実にいい気分である。 現在の潜行速度は、およそ馬車で軽く流している程度の速度だ。音や振動に敏感であろう海洋生物……要するに睡眠中のガイストを刺激しないよう、できるだけゆっくり静かに機体を進めて、あわよくば会敵せずに目的地まで辿り着こうという算段だ。 「よし、もうすぐ岩礁水域を越える。そうしたら少し深度を下げて」 《アイアイ!》 インモータルが返事をするのとどちらが早いかというタイミングで、僕らは開けた海域に出た。ここから入り江の入り口までは特に障害物もなく、深すぎず浅すぎずな深度を進んでいけば、存外あっさりとガイストの警戒網を突破できそうだ。 「うん、これは運が良かったのかも知れない……」 内心で力強く頷きながら、僕は動的、静的両方の探信儀の反応を確認し…… 「……そうでもなかったみたい」 無い筈の肩を静かに落とした。 《敵?》 インモータルが問い掛ける。彼にも僕の探信儀が得た情報が転送されているだろうが、それでも聞いたという事は、インモータルは本当に無視界状態であるようだ。 「敵だ。大きな魚型のガイストが数匹。小魚の群れみたいなのが4つ。正面から!」 《了解……これかっ!》 僕のアナウンスと探信儀の反応を照らし合わせ、インモータルは大きな魚型ガイストの一匹に狙いを定めると、水の抵抗を受けているのだろう、空中のときより酷く緩慢な動きで右腕をすっと伸ばした。 すぐさま手甲の装甲板が展開され、内部に溜まっていた空気を排出しながら八連装ガトリングが姿を現す。 「相手は速いぞ、気をつけろ」 《雑魚は雑魚らしく……海のお出汁にでもなってろっ!》 意味の分からない事を叫びながら、インモータルはガトリングから次々と魔法矢を連射する。が、遅い。水中における魔法矢の弾速は空中のそれと比べ格段に落ちている。まだ距離があった事もあり、魚型ガイストはひらりとそれらを回避して、速度そのままでなおも突進してきた。 長く歪に進化した牙を剥き、インモータルに喰らい付かんと殺到したのは、体長二リーターム近い大型の魚型ガイストだ。航空型WoSの飛行速度に匹敵するスピードで海中を突き進んでくる。 剣を振っても水圧に邪魔されて間に合わない。それほどまでに敵の速度は速い。 「まずい、インモータル!」 《わっしょぉーいっ!!》 ドスンという激しい衝撃、僕は思わず両目を瞑っていた。 直後、機体が思い切り左右に振り回されると、それとほぼ同時に複数のクリスタル反応が消失する。 今何をした!? 思わず目を見開いた僕の目に飛び込んできたのは、頭から尾までを貫く風穴が空けられ、まるで竹輪のようにされた魚型ガイスト。そしてその左右には粉微塵に粉砕された小型ガイストの残骸が、まさに海の藻屑となって消えてゆく瞬間だった。 「な、何だぁ?」 どうやら決定的瞬間を見逃してしまったらしい。妙な敗北感に囚われた僕は、次の襲撃を前に「絶対に瞬きするもんか」と両目を見開いた。 インモータルの動きは素早かった。確かに空中での動作よりはもっさりとした緩慢な動きではあるのだが、相手がこちらに喰らい付こうとした瞬間、インモータルは水の抵抗を極限まで抑えた最小の動きで反撃を行っていた。 即ち、刺突である。 斬撃用兵器であるはずのディバインラスターを、インモータルは一瞬の躊躇いもなく、一直線に敵ガイストへと突き出し、ガイストの頭骨を貫通。まさしく串刺し状態だ。 それだけでは終わらない。間隙をおかず、ディバインラスターの刀身が真っ二つに開き、強烈なクリスタルエナジーの反応がガイストの体内へと叩き込まれた。それを受けたガイストは内部から肉体を破壊され、先述したとおりの竹輪型に加工されてしまう。 さらにインモータルは機体全体に捻りを加え、ディバインラスターを左右に振るう。 二股に分かれたディバインラスターの刀身から放たれるクリスタルエナジーの渦が、細かな魚群ガイストを一気に飲み込み、そのことごとくを粉砕してしまった。 気付けば襲い掛かってきたガイストの群れは一匹たりとも生存しておらず、インモータルは悠然とガイストだったものの残骸が漂う中を通過していった。 「……す、すごいな。海中戦の訓練とかしてたのか?」 呆気にとられていた僕の口を自然とついて出たのは、そんな言葉だった。それを受けたインモータルは愉快そうに笑い、しかしきっぱりと否定する。 《いや、水中で活動できる事も知らなかった》 「じゃあなんであんなに自信満々だったんだよ……」 《危険だ危険だといったって、私達には逃げ場なんてないんだ。だったら少しでも可能性のある道を突っ切るしかないだろう?》 「な、なるほど」 どうやらインモータルには迷いというものが無いようだ。 一体彼を突き動かす原動力とは何なのか……人類の未来を勝ち取るための戦いであるという自負は、勿論僕にもある。だがそれだけではない。これ程までに迷い無く、真っ直ぐに、ひたむきに前に進むその力の源は何なのだろう。 R-02インモータルの戦闘能力に対する絶対の信頼だろうか? 少なからずそれはある筈だが……どうだろう、僕には良く分からない。 これまで数え切れないほどの同胞たちを見送ってきた僕の目でも、この漆黒の死神の心の底を見通すことは出来ないようであった。 《ぷはあーっ!》 ざばっと水面を突き破り、僕らは再び地上へと舞い戻った。 「いや、呼吸なんて必要ないんじゃなかったのか?」 《そうだけどさ、やっぱり水から出たらやっちゃわない?》 「やっちゃわないと思うけどなぁ」 そこは目標地点であったトライリス・タワー麓の入り江であった。座標ばっちり、インモータルはすぐさま僕を投げ出し、お得意のSWCを起動。海中にいる間から岩壁の向うにはぽっかりと空いた空間が確認されていたのだ。 《キューちゃん離れてろ!》 言うと同時に発射。近距離でSWCの直撃を受けた岩壁は奥へ向かって崩壊し、巨大な風穴を作り出した。 「インモータル、注意喚起してくれるのはありがたいけど、出来れば撃つ前に言って欲しいな……」 《ん、まあ良いじゃん》 いやよくねーよ。 |
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