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Vanishing Ray Stage01
“Philadea Basin” - The land to maximum entropy - |
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3 身体がばらばらになってしまうような感覚とともに打ちつけられた動的エネルギーは翼の付け根に集中し、激痛を伴いながら強化骨格が悲鳴をあげた。 すると一転して、支えを失った身体はぐるりと方向を変えた。どっちが上でどっちが下か分からないが、今度は脚が引きちぎられるような感覚を覚える。痛い。 「せめて楽に逝かせて欲しかったッ!!」 ふわりと身体が浮きあがり、揚力と重力加速度が釣り合った時特有の無重力感に支配された僕の心の叫び……いや、心からの叫びであった。 《悪いがそれは諦めてくれ》 「えっ?」 不意にそんな声が僕の耳に届いた。 驚きに開かれた僕の両目に飛び込んできたのは、眼前に居座る黒い機影。そして群がる無数の航空型ガイストの群れである。 「何だ、これは?」 それは見たこともない機体であった。 全身を黒に染めたスマートなフォルムに鋭角的に盛り上がった胸部。背中には六枚の翼を持ち、右肩には大型のカノン。左手には長大な剣を携えている。 「まさか……レイス!?」 《口閉じないと舌を噛むぞ!》 驚愕する僕にそう言い放つと、レイス型と思しきその機体は肩のカノンから爆音と衝撃波を伴う砲弾を撃ち出した。 その反動は凄まじく、すぐ背後にいた僕は爆風に煽られ、そのまま後方へとすっ飛ばされてしまった。 「うわぁぁっっ!?」 信じられない事が起こった。突如現れたレイス型WoSが、前方から迫り来る十数体の航空型ガイストの群れを、瞬時に消し飛ばしてしまったのだ。 「これは……SWC!?」 SWCと言えば、要塞級ガイストの攻略に用いられる大型クリスタル兵器である。以前これを装備したセイヴァートゥース隊に随行した事があるが、一機あたり一発が限度という凄まじい発射コストと運用性の悪さ。そしてそれに見合う破壊力を備えた超兵器だった。 たしか一発発射するために必要なコストはクリスタルケージ五十目盛り。クリスタルエナジーの補給が難しい以上、連続発射をするためには一撃で十七体のガイストを撃破する必要があり……って、そんな事は今はどうでも良い。問題は目の前に現れた機体が、僕の記憶媒体にも収まっていない未知の機体であるということだ。つまりこれは…… 「し、新型……ッ?」 《大丈夫か? ナインフェザー》 自由落下を始めた僕の脚をむんずと掴み、レイスはそう問い掛けてきた。その姿に見惚れて、羽ばたくのをすっかり忘れていたのだ。 レイス型の声はよほど旧式のクリスタルレシーバーを使っているのか、ノイズでしゃがれた老人のように聞こえたが、口調はかなり軽い。恐らく僕とそう変わらない年齢のオペレーターが搭乗しているのだろう。 「あ、ああ……何とか大丈夫みたいだ」 《そうか、じゃあ放すぞ?》 「ってのわぁっ!?」 混乱したままの頭で僕が答えると、レイス型は僕を無造作に放り投げた。振り回された事でさっきとは逆の脚がみしりと痛んだ。若しかしたら、気を使ってさっきとは逆の脚を掴んでくれたという事だろうか? 《話すことは色々あるけど……まずは空の大掃除が先決か。付いて来い、ナインフェザー!》 「え? いや、付いて来いっていわれても」 《ガイストを蹴散らす》 「そんな……無茶だ!」 一体何を言い出すのだろう。単機でガイストの群れを一掃するなんて出来るはずがないし、よもやナインフェザーに戦闘能力がない事を知らないのでは無いかと、そんな有り得ないことすら勘繰りたくなる言い草だ。 《一々うるさい奴だな。とにかく私を信じてついて来い!》 「そんなの無理だ。知り合ってまだ五分と経ってないじゃないか」 無茶苦茶な事をいうレイス型のオペレーターに、僕も些かムッとして強い語調で返してしまった。すると気に障ったのだろうか? レイス型からの反応が一瞬途絶えた……かと思ったら。 《……ぷっ、ははは! 面白い事をいうな、君は》 「へっ?」 突然の笑い声、意表を突かれた僕は思わず目を丸くした。 ドゴオオオオオン!!!! 「ぬわあああぁっ!?」 直後再び……いや、恐らく三度目だろう。身に覚えのある衝撃波とともに、レイス型がSWCをぶっ放した。再度僕ら目掛けて殺到していた航空型ガイストの群れを消し飛ばしたのだ。 どこにそんなストックが? そんな僕の疑問を知ってか知らずか、レイス型は変わらぬ調子でこう告げた。 《君は下士官だろう? 上官命令だ。付いて来い》 「……階級章は?」 《面白いジョークだ》 言うがはやいか、レイス型はこちらにずいと詰め寄った。かと思うと、何を思ったのか彼は僕の脚を三度つかみ、地面に向けて一気に引き落とした。 「うわぁっ!!」 引き落としたと言っても、ここは上空四百リータームである。その程度で墜落の危険はない。 「なにをするん」 振り仰ぎ、文句を口にした僕の目の前を、巨大な岩石が通過した。 「…………」 《さっさと付いて来いナインフェザー。増援部隊到着後はその指揮下に入る。それが君の受けた命令だろう?》 「……! って事はあなたが増援部隊の?」 《そういえば自己紹介がまだだったね。機体識別番号R-02、レイス型WoS“インモータル”だ。宜しく》 「インモータル……やはりレイス型。完成していたのか……」 レイス型WoSの開発は十数年前には始まっていたが、全召喚郡の中でも突出した戦闘能力を誇るにも拘らず、その飛行特性を等の性能を活かす事ができず、またその召喚コストの高さから実用段階に踏み切られることが無かったため、開発が頓挫していたのだ。 しかし実戦配備はほぼ絶望的と言われていたにも拘らず、レイス型WoSの開発を諦める研究者は居なかった。それは、レイスの傑出した戦闘能力こそが、人類軍最後の希望でもあった為だ。 《そういうことだ、じゃあ行こうか。反撃開始だ!》 そう言って格好良く飛び出そうとしたインモータルに、僕は慌てて制止をかけた。 「ちょっと待って!」 《何だよ?》 「新型は有り難いけど……他の仲間は? まさか単機で飛んで来たわけじゃないよな?」 《残念だけど、その通りだ》 「…………」 まったくもってわけがわからない。 突如として現れた友軍機は前代未聞のレイス型で、しかも事実上連射不能なはずのSWCを豪快に撃ちまくっている。 戦闘能力で言えば、恐らくセイヴァートゥース三個小隊すら上回るだろう。 だが、だからといって…… 「たった一機でどうしようって言うんだよっ!」 《私もそう思うよ》 絶望的な一言を聞いた気がした。僕は目の前が真っ暗になるような気がしたが、程なくしてから含み笑いのような気配がクリスタルレシーバー越しに伝わって来た。 《たった一人で何が出来る……私もついさっきまでそう思っていた。地上のガイストをこの手で一掃するときまではね》 「何を言って……?」 インモータルの不可解な言葉に、僕は思わずそう聞き返していた。その声と同時に、機械と生身が入り混じった翼から青白い光を噴き出しながら、R-02インモータルは急激な加速で敵航空型ガイストの群れの直中目掛けて突撃を敢行した。 《今から実演してやる、目ン玉かっぽじってよく見ていろよ観測機!》 ノイズ交じりの声とともに、インモータルの右腕が伸ばされる。前方のガイストへと狙いを定めると、その腕をよろう幾重にも連なった装甲版が展開し、八連の銃身があらわになる。 「!?」 《砕け飛べ、カトンボども!》 砲身が回転し、次々と細かな弾丸が射出される。弾速そのものは航空型WoSの標準装備である魔法弓より劣っているが、その連射速度たるや、全く比べ物にもならない。 ガイスト側からしてみれば、未知の敵機に突如撃ちかけられた弾幕である。大きく旋回して回避をしたものを除き、前方から迫っていた殆どのガイストが被弾し、体勢を大きくよろめかせる。そして被弾箇所を中心に、真っ白に凍てついているではないか。 「氷結弾か!」 凍てつく弾幕に動きを封じられ、ガイストの群れは一瞬で動かぬ的へと変貌を遂げる。そしてそれに迫るは黒い影。加速を止めぬままインモータルが左手に携えた大剣を一閃する。 あるものは胴体を切り離され、あるものは翼をへし折られた。そしてあるものは頭部を一撃で粉砕され、生命の証……クリスタルエナジーの残滓を残して地上へ降り注ぐ塵の一つへと姿を変えた。 「つ、強い」 たった一機で十を超える航空型ガイスト達を、ものの数秒で仕留めてしまった。 この規格外れな戦闘力。これこそがレイス型の……インモータルの力なのか。 愕然とする僕を他所に、インモータルは回避動作をとったガイスト達へと氷結弾を撃ちかけ、同様に斬って捨てる。 ほんの数回これを繰り返しただけで、空を舞うのは僕ら二機のみとなっていた。 「…………」 《お分かりいただけたかな、観測機くん?》 「凄すぎる」 《よろしい、ではメインディッシュといこうか》 僕の反応に満足したのか、インモータルは小さく頷き機首を地上の巨大ガイストへと向けた。 《親玉を討ち取って地上への援護としようじゃないか!》 インモータルの言うとおり、親型であるランドスイーパーの討伐が叶えば砲撃も止み、種子による侵食が広がる事もなくなる。地上は地上の連中で盛り返せるだろう。このインモータルの力があれば、若しかするかもしれない。 《水先は頼むぞ、キューちゃん!》 「お、おう!」 |
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