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Vanishing Ray Stage01
“Philadea Basin” - The land to maximum entropy - |
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4 《おい、あのデカブツ弱点は無いのか?》 ランドスイーパーの頭部からもうもうと上がる噴煙を見下ろしながら、インモータルはそう問い掛けてきた。急降下しつつのSWCを顔面に打ち込まれ、ランドスイーパーはその巨体をくねらせたのだが、見てみれば分厚い肉と骨格に守られて致命傷には至っていない様子だった。 これまでは航空型ガイストに阻まれて接近する事すら叶わなかったが、近付いてしまえば砲撃に曝される事もない。時折その巨大な口で僕らを一飲みにしようと暴れるが、それは近付き過ぎなければ良いだけだ。 しかし、確かにこの耐久性は厄介だ。インモータルがほとんど撃墜してしまったため、航空型ガイストが新たに味方陣営に襲い掛かる事はなくなったろうが、依然としてランドスイーパーの砲撃は続いている。この分厚い肉と骨の鎧をどうやって破るか…… 「SWCはあとどのくらい撃てるんだ? 同じ箇所目掛けて連続で打ち込めば、いくら硬い骨格でもぶち破れると思うんだけど」 《たしかにそうだな。SWCももう二発はいけるけど……んー、これは足りるのか? 補給するには雑魚がもう居ないし……クソッ、居ても居なくても面倒な奴らだ!》 自分が撃墜しまくったガイストに向かって毒づきながら、インモータルはランドスイーパーの頭部を中心に幾度となく旋回をしている。時折大口を開けて迫ってくるランドスイーパーに対して氷結弾を打ち込んでみたりはするものの、そちらでは明らかに火力不足のようだ。 《いっそ今空けた穴に撃ち込んで脳みそほじり出してやるか?》 インモータルの言葉に僕はランドスイーパーの頭に開いた風穴を見遣る。傷口がまるで別の生き物であるかのように蠢き、奥から肉の塊のようなものがゆっくりとせり上がり始めている。大型ガイスト特有の、超回復能力が働いているのだ。 「そもそもコアが頭にあるとも限らないんだ、数撃てないなら乱発しない方がいい」 《じゃあどこを狙えばいいんだよ? モタモタしてると城壁まで整地されちゃうぞ》 「そうだけど……」 インモータルの言うとおりだ。ここで手間取っていては城壁が崩壊してしまう。 すでに防衛戦線は崩れているのだ、急ぎランドスイーパーの進攻を止めなければネツァワル首都ベインワットが丸裸となり、全ての大陸が陥落する。 考えろ、考えるんだ。今まで生きてきたのも。多くの仲間を見送ってきたのも、ガイストを倒すため……このときの為だろう! (どこだ……奴のコアはどこだ?) 低空を滑るように飛びながら、僕はランドスイーパーの巨躯を睨む。外からコアの位置が分かるわけではないが、それでも何かの手掛かりを探そうと必死になり、僕は飛び続けた。 (どこだ、どこにある!?) その間も、ランドスイーパーの砲撃は止まない。 胴体下部の繊毛が地表を削り取り、腹の中へと取り込んだ岩石を弾にして背面の砲台から射出する。卵管と揶揄される種子の排出口もそこだ。 (どこにあるんだ、奴のコアはどこに!) 《キューちゃん、まだか!》 「頭、背中、腰……どこも決め手がないッ……」 思わずそんな言葉がこぼれた。インモータルに急かされるまでもなくナインフェザーの動的探信儀を最大出力で稼動してはいる。しかし分厚い肉の壁に阻まれてコアの位置が掴めないのだ。次第に焦りは募り、時間だけでなく精神的にも余裕がなくなっていく。 《オッケー、分かった》 「は?」 うん、いまの流れは何だ? インモータルは何に対して「分かった」と言ったんだ? 一体何がオッケーなんだ? 様々な疑問符が頭の中を駆け巡っている僕を横目に見遣りもせず、インモータルはやれやれと……それこそため息混じりに呟くように言うと、地面に擦れそうなほどの低空飛行でランドスイーパー目掛けて突っ込んでいった。 「インモータル!? 一体どうするつもりだ!」 土埃の航跡を大地に刻みながら、インモータルは超低空を翔ける。 《決まってるだろ、頭も駄目。背中も駄目なら》 「まさか腹を? そこは駄目だ、岩石でも噛み砕く触手がみっちり生えてるんだぞ!」 《そんなもの……ッ》 しかし僕の制止も聞かず、インモータルはランドスイーパーの足の間へと、一瞬のブレーキすらなしに突入していく。その動きに、一握りの迷いすら見て取れはしない。 《このインモータルが吹き飛ばすッ! 唸れウェーブキャノン!!》 ランドスイーパーの下に潜り込むのと、インモータルのSWCが火を噴くのは同時だった。触手繊毛なんのその、迫り来る圧殺の脅威を前に、インモータルはその最大火力を情け容赦なく叩き込んだ。 体の下を嘗めとるように、SWCの閃光と衝撃波が一直線に突き抜ける。それは地面を抉っていたはずのランドスイーパーの繊毛を、一撃で根こそぎ奪い去っていた。 痛覚があるのだろうか。ランドスイーパーの巨体が再びくねり、およそこの世のものとは思えない禍々しい悲鳴が晴天の大地に響き渡る。 「そうか、繊毛でこそぎ取った岩石を体内に取り込むために、腹部には分厚い革も骨格もない筈!」 《触手さえ焼き払えば、こんな木偶の坊》 一瞬で形作られたトンネルを前に、インモータルは携えた左の大剣を振り上げる。 《二枚おろしにしてやるっ!!》 むき出しになった腹に深々と剣を付きたて、その突き抜けた馬力に任せて一直線に翔け抜ける。 《うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!》 インモータルが駆け抜けた背後に一直線の刀傷が連なる。風が渦巻く轟音と血風を尾に引きながら、漆黒の死神が赤く染まり、抉られた大地の道とそれに覆いかぶさる異形のものを赤く染めてゆく。 と、突然大剣に強い手応えを受け、そこに引っかかるようにしてインモータルの機体がぐるりと反り返る。 「インモータル!?」 機体を振り回され地面に激突する!? 僕は思わずインモータルの名を叫んでいた。しかしインモータルの対応は僕の反応よりもずっと早く、そして速い。 《見つけたっ!》 インモータルはその反動を利用して機首を真上へ。ガイストの腹を真正面に見据えるように機体を傾ける。そして間髪入れず、最後のSWCが火を吹いた。 柔らかい腹の肉が弾けとび、インモータルに血の豪雨を降らせる。その中で怯みもせず、インモータルはランドスイーパーの体内へと飛び込んだ。剣を掲げ、こちらからは視認できないものの、確かに「それ」を貫いた。 《終わりだっ!》 その瞬間、ごうと突風が空洞を抜けるような音を漏らせ、巨大ガイストが身を震わせた。 同時にインモータルの居る場所に、夥しいクリスタルエナジーが観測される。 これは……そう、これこそが生命の証。生きとし生けるものが例外なく持つ、クリスタルの力。それがあふれ出している。即ち…… 「や、やったのか?」 唖然としつつも、そんな言葉が口をついて出た。 古くは人を討ったときに。現在では敵ガイストを打ち倒したときに得られる僅かなクリスタルエナジーの残滓だ。巨大な肉体を持つランドスイーパーがコアから漏れ滴らせるそれが、恐らくこの信じられない量のクリスタルエナジーの正体であろう。そうであって欲しいと、僕は願い、そして信じて疑わなかった。 インモータル。その存在に希望を見出そうとしていた。 「やった……インモータ」 ゴウン!! 歓喜の声を上げようとしたその時、地面を揺らすほどの轟音が響いた。 「なっ、何だ!?」 ゴウン!! ゴウン!!! それは立て続けに響き、ゆっくりと地面に降り立ったナインフェザーの機体を揺さぶる。 まだ奴は生きているのだろうか? 己を傷つけたインモータルを亡き者にしようと、抵抗を試みているのだろうか? 「……いや、違う」 そうだ、僕はこの衝撃を覚えている。 今さっき味わったばかりの衝撃波だ。忘れるには早すぎる。 そう、これは…… インモータルの、僕ら人類に残された最後の希望を背負った死神の放つ、衝撃波動砲の唸り声だ! 《うおおぉぉぉおらおらあぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!》 迸るクリスタルエナジーを浴びつつ、インモータルのSWCが繰り返し火を噴く。ランドスイーパーのコアを裂き、肉を焼き、骨を砕き、外皮を突き破る。 やがて一際大きな爆音とともに、ランドスイーパーの背中を突き破り、大樹を連想させる光の噴水がフィラデア盆地に出現した。SWCを何発も撃ち出して尚溢れるほどの生命の光が、大地を滅ぼそうとした巨大な悪魔から噴き出し、大地に還ろうとしている。 そして、その奥から羽ばたきながら、漆黒の死神が再び僕の前に姿を浮かび上がらせた。 浴びた鮮血も洗い流され、初めてまみえたその時と寸分違わぬ姿で。 「いや、今はもう違って見えるよ……」 《うん、どうした?》 光に包まれた死神は、ノイズ交じりのしゃがれた声で僕に問い掛ける。 僕はただ黙って首を振り「なんでもないよ」とだけ答える。 《変な奴だな……まあいいさ。クリスタルエナジーの補給も出来た事だし、早速次の作戦に移ろうか》 「了解、僕は何をすればいいんだい?」 《簡単さ、私のナビと索敵、戦闘の記録。それから……》 「それから?」 僕の問いにインモータルは光の中で肩を揺らし、冗談っぽい口調で答えた。 《道中暇そうだからな、私の話し相手にでもなってもらおうか》 「それは今までにない斬新な任務だ」 《ふふ、宜しく頼むよ。キューちゃん》 ナインフェザーには繋ぐ手などありはしないが、インモータルは手を差し伸べた。加えて彼我の距離は百リータームを越えるほどに離れてはいるが、そんなことは問題ではない。 R-02インモータルは、この僕ナインフェザーを仲間として認めてくれたのだ。 若しかしたらこの人とならば、世界を……人類を救えるかもしれない。 初めて出会った、希望という名の光を見つめながら。僕は不思議な感情で胸がいっぱいになるのを感じ、そして…… 「任務……了解!」 応えた。 |
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