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Vanishing Ray Vanishing
ray Stage03-A “Warlock battlefield” - Loud laughter of Full Metal Beast - |
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1 エスセティア大陸とは、かつて人類同士の壮絶な奪い合いが演じられた地だ。 僕らの祖先であるマルク人はエスセティアを中心に五陵星形に配された五つの国家にわかれ、各々が中心に位置するエスセティアを掌中に治めようと争っていたらしい。僕らが今向かっているウォーロック古戦場も、そのような背景から幾度となく合戦の場として用いられていた。 ウォーロック古戦場の盆地は周辺の乾いた赤い大地とは異なり、肥沃な黒土(チェルノーゼム)の土壌を持っている。その黒い土は人類の血涙を吸い続けたものだとして、その土地に近付くことすら忌避する者もいた……もっとも、それは単なる迷信に過ぎず、現在では良質の粘土が産出できる事から人類軍が前線基地を作り、資材確保を続けているというプラスイメージの方が強い。 また、土壌が豊かであるということは、作物も豊富に採れるということだ。 ガイストによる襲撃の危険を常に孕んでいるとは言え、現在人類が確保できているのはネツァワルのとても豊かとは言い難い大地と、四方を海で囲まれたヴィネル島のみ。危険を覚悟してでも各地に生産拠点を確保し続ける必要があった。 《とは言ってもさ、やっぱりガイストがウロウロしている土地で農業なんて、ぞっとしないよね》 「まあね、実際何度も壊滅の危機に瀕しているって言うし、そうでなくても補給路が占領されて一体何度孤立したか分からないって話だよ」 《こわい・きつい・きけんの3Kか。私たちオペレーターとどっちがましな仕事かねぇ?》 「それは言ってやるなよ」 睡魔と闘っているインモータルのぼうっとした言葉に苦笑を浮かべつつ、僕はやんわりと突っ込みを入れた。前線基地というからには多くの兵器が配備されており、日夜ガイストの軍勢と熾烈な争いを続けているものと思われがちだが、実際に配備されている者の多くは従軍経験のない農夫が半数以上を占めている。軍関係の施設はごく少数で、農夫たちの護衛と周辺状況の監視報告が主任務とされている。 配備されている戦力も貧弱なもので、実戦になればネツァワルよりの援軍頼りとなる。正に危険と隣り合わせの日々を送っているのだ。しかし彼らの尽力なくして、人類の存続は無いだろう。様々な戦場を経験してきた僕としては、影から人類全体を支える彼らに尊敬の念を抱かずにはいられない。 《ともあれ、ようやくゆっくり休めるわけだ。このまま飛んでたらいつ事故を起こしても不思議じゃないからねぇ》 「そんな風にフラフラ飛ばれてると冗談に聞こえないな」 《冗談じゃないもん》 僕の言葉に気を悪くしたのか、インモータルはむっとした声で言い返すと、六枚の翼を一際大きく羽ばたかせ上昇した。 ウォーロック前線基地は敵襲に備えて高台に設置されている。人工の切り立った崖際に聳える平たい建造物がそれである。 誘導員の指示に従い発着デッキに降り立った僕が目にしたのは、格納庫というには少々貧相な小屋に収まったいくつものハンガーだった。人工のクリスタル兵器を装備するインモータルの召喚および解除には、このような設備が必要になるそうだ。 ご苦労な事だと他人事のように思いつつ、一足先に地に足をつけた僕は召喚状態を解除する。 肉体に同化していたハーピーの魂がクリスタルエナジーによる支えを失い、瞬時に僕の体から離れる。光の粉を撒き散らすようにハーピーの肉体が砕け、変わりに僕が持つ本来の姿、人間の肉体が戻った。 魂の融合率を高めるために装着していたハーピーのそれを模したマスクを剥ぎ取り、僕は大きく息を吸い込んだ。すこし埃っぽいが、丸三日ぶりの新鮮な空気を直接肺に取り込むことができ、すっと頭がクリアになるような感覚が僕を満たした。 振り返れば、一足遅れたインモータルがデッキ奥に設置されたハンガーに向かいへろへろと飛んでいる。大型RAMクリスタルを整備員に預け、僕はインモータルに向けて声をかける。 「インモータル、僕は先に行ってるからな」 《は、はぁーいぃ……》 外部スピーカーから聞こえる声は、レシーバー同士で交信していた時よりも音質が悪く、酷い音割れをおこしていた。しかし僕は気にも留めず、一足先に屋内に用意された休憩室へと向かっていった。 背後からけたたましい激突音と、整備員たちの悲鳴が聞こえるのはその直後だった。 「インモータルの長時間連続運用は厳禁……か。後でRAMクリスタルに追加入力しておこう」 ****************************** 「来きました。例の黒いWoSです」 遥か遠く。ウォーロック軍事基地から二千リータームほど離れた禿山の頂から、インモータルらの到着を見つめる人影があった。 誰かが放った言葉を受け、手にした望遠鏡越しに漆黒の死神が降り立つ姿を認めたのは髭面の中年男である。 「通信はフェイクではなかったか……軍もいい加減なものだな」 男は憮然とした様子で呟き、望遠鏡を持つ手を下す。 「やはり噂は本当だったんですね」 「ということは、エルソードの親型ガイストもアイツが?」 「恐らくそういうことだろう。やつらが生きてここに到着したということが何よりの証拠だ」 髭面の男に付き従うように、複数の男たちが矢継ぎ早に質問を投げかけ、髭面の男も冷静にそれに答える。 彼らは一様にぼろぼろのマントを羽負い、頭髪も長い布を巻きつけて隠している。砂埃の舞う荒れた大地に身を潜めるための装束であることは明らかであった。 軍事基地の周辺地帯を除けば、ウォーロック古戦場は赤土に覆われた枯れた大地でもある。チェルノーゼムの土壌を持つ基地周辺では砂塵から身を守るためにそこまでの装備は必要ないため、彼らは軍事拠点の農夫として働いている者ではないということが分かる。 果たして彼らは夜盗か盗賊か。だがそれにしては一人ひとりの表情は落ち着いたものだ。盗賊の類が持つ飢えた獣のような鋭い眼光もなく、何より衣装に似合わず肌や髪が小奇麗なままだ。 「もうすぐ新型の召喚装置が到着する筈だ、そのタイミングを狙う……準備を怠るな」 どこかちぐはぐな印象を受けるその一団だが、リーダーと思しき髭面の男がひとたび言葉を発すると、男たちは無言で頷き胸に手を当てた。 その規律性は軍のものとは違う、何か統一された思想のようなものを感じさせる動きだった。 「全ての人類に英霊の導きを」 ****************************** 「いやースゴイっスねー! 実はオレもWoS乗りに憧れて軍に志願したんスけどね、整備班担当になってからこっち修理とかばっかりでいつまで経ってもWoSに乗らせてもらえねんスよ! でもこのアレ。あのー……インモータル? マジスゲッスね! 大型ガイストを二体もブッ倒したっつーんスから、マジスゲッス。マジパネェッス!」 「あー、うん、そうねー。すごいよねー」 「いやホント、オレも観測機でいいから一緒に飛んで戦いてぇっスよマジ。インモータルマジ英雄っスよね。ヤベカッケーッス。マジパネェッス! あ、ナインフェザーの兄貴もスゲェッスよ勿論。インモータルについてガイストの群れの中突っ切ってきたんスよね? マジスゲッス。マジパネェッス!」 「…………」 眠れなかった。 僕が休憩室で休んでいると、基地の整備員として軍役についているらしい少年がやってきて延々と喋りかけてきた。そして現在に至る……である。少年はハルマーと名乗り、伝え聞いたインモータルの活躍に感動して到着を今か今かと待っていたそうだ。 「ナインフェザー兄貴、この先もどんどん巨大ガイストをブッ潰して回るんスよね? そりゃあもうばったばったとなぎ倒して回るんスよね? いやーいいなぁ、オレもついてって一緒に戦いてぇっスよ。あ、いっそホントにオレ一緒に連れてくとかどうっスか? オレどんなところでもインモータルの整備するっスよ?」 「あー、そういうことはインモータル本人に聞いてみてくれ」 「いやいやダメッスよ。インモータル大先生はいまお休み中っスから邪魔できるわけねえっス!」 僕もお休み中なんスけどね? 憧れてくれることや褒められることは素直に嬉しいし、自分たちの戦いが人類の確かな希望に繋がっていると実感できる。だからこそハルマーの言葉は言葉の意味以上に僕の心には響いていた。 しかしインモータルほどではないにせよ、僕だって疲れているし眠かった。正直放っておいてほしいという気持ちが有難い気持ちを上回っていた。 「と、兎に角。インモータルは僕ら人類の希望なんだ。そのためにも常に万全の態勢で居てほしいわけだよ。それには君たち整備班の人たちの力がどうしても必要なわけだからさ、影ながらになるかもしれないけど、インモータルを支えてやってよ。その……僕からもお願いするからさ」 正直、早く仕事に戻ってくれと思い。僕は良く考えずに適当なことを口走った。 よくよく考えれば微妙に上から目線で偉そうな物言いになっていたので、これは反感を受けてしまうんじゃないかと不安に思ったりもしたのだが、ハルマーはそこまで賢くもなかったようだ。僕の言葉にどういうわけか感動した風な表情をつくり、その厳つい両拳を握り締めてぶるぶると肩を震わせた。怒っているのではない。目には漫画のような涙をいっぱいに湛え、口元はにやけている。 「あ……あ……ありがとゴザイマス!! オレ、これからも兄貴たちのお役に立てるように全力で頑張るっス! 兄貴たちスゲカッケーッス! マジパネェッス! オナシャッス! アジャシャッス! シツリャシャッス!!」 と、後半殆ど聞き取れなかったが猛烈な勢いで頭を下げて猛烈な勢いで部屋から去っていった。 猛烈な勢いで閉じられた木製のドアが猛烈に軋み、僕の耳に猛烈な反響が残った。 それから暫く、僕は猛烈に残る耳鳴りのおかげで眠ることが出来なかった。 |
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