Vanishing Ray

epilogue bridge

 

 傷ついた体を休めながら、僕らはぼんやりと海を眺めていた。

 空はうっすらと白み始め、藍色の雲がゆっくりと流れて行く。

「ねえ、インモータル」

《ん?》

 互いに視線を交わすこともなく、それぞれが彼方の空を見つめたまま、言葉だけが交わされる。

「僕らは、本当に正しい選択ができたのだろうか?」

 ナイアス王の顔は安らかだった。死よりも辛い、孤独な時を生きてきた彼に、最期の安らぎを与えてやった……そう言えば聞こえはいい。だがそれが本当に正しい選択だったのか、僕はその答えが出せずにいた。

《それは私が聞きたいくらいだけど……》

「けど?」

《生きていれば幸せとか、そういう事は簡単には言えない》

 耳が痛かった。

 僕はいままで幾人もの死を見届けてきた。それは決して楽な仕事ではなかった。僕も彼らのように戦い、死んで行けたらどれほど楽だったことだろう……僕自身何度もそう思ったことがあったからだ。

《ただ彼は彼の役目を全うした。だからこそあんなに安らかな顔で逝けたんじゃあないかな?》

「……うん」

《私たちは彼の意志を継いで、この機体で戦い続ける。戦って戦って……そして生き残るんだ。それが私たちに出来る、彼への餞だよ》

「うん……」

 やはり、インモータルの言葉は正しい。

 僕が心の底から同調できるかどうかは別として、彼の言葉は人間として、そして戦士として正しい答えに違いない。

 その答えが、僕にはどうしてもエゴイスティックなものに思えて仕方がかったのだが、やはり考えれば考えるほど、インモータルの言葉が正しいのだろうという確証ばかりが強まっていく。

 悪いことではない、少しも悪くないのに……どうしてこんなに切なくなるのだろうか。

 答えが出ないまま、僕は朝焼けの空を見つめ続けた。

 

《彼は……》

 長い長い沈黙の後、ぽつりと小さな声が僕のレシーバーに届いた。

《ナイアス王は、もう一人ぼっちじゃあない……のかな?》

 一瞬その言葉が何を意味しているのか理解しかね、僕はぽかんと呆けてしまった。

 だがすぐにインモータルの言葉の意図を理解し、僕はなんだか、胸の奥から暖かい何かがこみあげてくるような気持になった。

彼は確かに戦士だ。時には個を捨て、己の心にすら蓋をして任務を遂行する。しかしそれは、彼が深く人類を愛しているからに他ならないのではないだろうか?

無茶な事を言う。自信家で、お調子者で、それでいてどこか憎めないこいつの行動原理は、きっと誰よりも優しいその心にある。

 そう気付いたとき、僕は彼を……インモータルのことを信じ続けてみようと思った。

誰よりも強く、誰よりも純粋で、そして誰よりも優しいこいつの事を。

ナインフェザー(ぼく)を信じてくれた、インモータル(こいつ)の事を。

「ああ……そうだね」

 朝焼けを受けて輝く水面を眺めながら、僕は自分でも不思議なくらい穏やかな気持ちで、そう答えた。 

 

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