Vanishing Ray Vanishing
ray Stage03-A “Warlock battlefield” - Loud laughter of Full Metal Beast - |
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Introduction ネツァワルの基地を発ってから、もう三日目になる。ナインフェザーはクリスタルエナジーの消費が無い為にエネルギー的な問題は無いのだが、インモータルはどうなのだろう? 《エネルギー? スラスターを吹かして高速機動をとってさえ居なければ、クリスタル消費は無いけど……》 「ないけど?」 《流石にいいかげん眠いよ》 相変らずくぐもった音声だが、その上でもはっきりと分かるほど、インモータルのテンションは低かった。 ナインフェザーはハーピーを素体としているだけあり、長距離航行能力が極めて高い。どのくらいの能力があるかというと、寝ながらでも一定の速度で一定の方向へ飛行を続けることができる。ちょうど渡り鳥のそれと通じる能力だ。対するインモータルは、当然そんな機能は無いはずなので一睡もせずの作戦行動となっている。 流石にちょっと可哀相だと思い、しかし僕に出来るのは苦笑を浮かべる程度のことだけだった。 「次の目標はナッツベリーでいいのか?」 《うーん……その筈》 「その筈って……」 これはいよいよヤバそうだ。そう思いながらも、インモータルを休ませてやることは出来なかった。 解除するだけならば簡単なのだが、インモータルの召喚にはゲートオブハデスと呼ばれる建造物と、非常に多くのクリスタルの貯蓄がなければならないのだ。 (これって初めからインモータルを休ませるつもりなんて無かったってことだよな……) 事態が逼迫している事は疑いようもないのだが、それでも人類存亡をかけた試作機のオペレーターにこの仕打ちはないのではないだろうか? どこか不条理なものを感じつつ、しかし僕にはどうしようもないというのもまた事実だった。 「作戦はナッツベリーの強攻偵察で終わりなんだろう? それさえ終われば後は帰投するだけなんだから、ホラ頑張って」 《うーん、召喚中はおなかも空かないし歳もとらないのに、どうして眠くなるんだー?》 「知らないよ、それこそナイアス王に聞けばよかったじゃないか」 《今更言わないでよ》 「その言葉、そっくりそのまま返すよ」 そんな無駄口を叩きながら進路を東へととる僕らのもとに、友軍からの通信が入ったのはまさにそのタイミングでだった。 トライリス・タワー奪還に成功した成果だろう。巨大ガイスト“ボールドキュービット”によって妨害されていた通信電波の励起装置が再稼働を始め、ナインフェザーの高性能クリスタルレシーバーがその広範囲通信補助機能の恩恵を受け始めていたのだ。 《なんだって?》 通信を終了した僕に対し、インモータルはやはりテンションの低い声音で問いかけた。嫌な予感でもしたのだろう。 「そのまさかだよ」 《まだ“まさか”とは言ってないけど》 「予定変更だ。カセドリアに展開中の部隊が大型ガイストの襲撃にあっているらしい。ナッツベリーは後回しにしてそっちの援護に向かってくれって」 《カセドリアか……遠いなぁ》 溜息交じりにインモータルが見やったのは、僕らが向かっているのとはほぼ真逆の方向だ。カセドリア共和国領はネツァワルから見て、エルソード王国領とは逆方向。すなわち、僕らはこれまで進んできた道を逆行して行かなければならないということを暗に示していた。 「心中はお察しするけどね、朗報もある」 《なんですか?》 「ウォーロック古戦場の前線基地に、R-02収容用の機材が輸送されているらしい。一旦そこで休憩・補給を行って、それからカセドリアに向かえってさ」 《それは良かった、今夜は久しぶりにシーツに包まって眠れそうだよ……》 レシーバー越しに聞こえてくるインモータルの声は、やはりテンションの低いくぐもった声のままだったが、安堵の溜息が混じっていた。 今の座標からならばウォーロックまでは数時間程度で到着できる。インモータル収容用の機材がまだ到着していないであろうことを考えれば、まるまる半日はインモータルに休息を取らせてやることが出来るだろう。 これで心のつかえが一つ取れた。僕はインモータル同様に安堵の息をつきながら、ぐるりと機首を巡らせた。 |
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