Vanishing Ray

Stage02 “the Straits of Scylla”

- A Hermit in contaminated blue -

Introduction

 

 フィラデアを後にした僕らは進路を北に向けてゆっくりと飛んでいた。

 フィラデア盆地の戦場は形勢が逆転し、長城に引きこもっていた人類軍がありったけのWoSを投入して反撃に打って出ていた。増援と援護射撃の途絶えたガイストの軍勢はじきに殲滅されるだろう。

 勝利を確信した高揚感と充足感。それと、一つの戦いが終わった安堵感が僕の胸をいっぱいにしていた。

 

「……そういえばインモータル、聞きたい事があるんだけど」

 インモータルとのデータ通信用に独立回線を確立しながら、僕は何の気なしに問い掛けた。

 インモータルが積んでいる通信関係の機材はよほど旧式のものなのか、僕のほうで設定をいじらなければまともな情報のやり取りにも困るという有様であった。それに関しては試作機だからありあわせの機材しか装備していなかったというインモータルの弁も一応は納得のいくものであった。

 しかし、僕が感じていた疑問はそれとは全く異なる。いわば全く関係のない話だった。

《どうしたんだい、キューちゃん?》

「それだよ」

《?》

「そのキューちゃんっていうの、なんだか僕のことを呼ぶときに使ってるみたいだけど、一体全体どうして僕がキューちゃんなんて名前にされてるんだい?」

 繰り返し言うが、僕らはまだ出会って三十分も経ってはいない。インモータルの力に未来への希望を抱かずに居られないというのは本心だが、それでも未だ心から信頼しあえる仲だとは言い難いものがある。にも拘らず、いきなりキューちゃんとはどういうことなのか。せめて名前の由来を問い質したいと思うのも、無理からぬ事であろう。

 というか軽口ばかり叩く正体不明の上官機に対する、しがない下士官のささやかな反抗という奴だ。

《ああ、だって君はナインフェザーだろう?》

「ええ、そりゃあまあ……それが何か関係あるのか?」

《ナインはマルク語で九っていう意味だ。だからキューちゃん。分かった?》

「…………」

《どうした?》

 なんと言うか、こいつに人類の未来を託して本当に大丈夫なんだろうか?

《急に黙りこくっちゃって、変な奴だね君は。さあ、準備が出来たら往こう。次の戦場が待っている》

 希望の次に訪れた不安を胸に、僕はインモータルにいざなわれるがまま、抜けるような碧空へと進路をとった。

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